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西村京太郎  「四つの終止符」

d0000995_20573492.jpg以前西村京太郎の作品を取り上げた時にちょっと触れたことのある作品です。私は西村作品の中では(今までに読んだ中では)2番目に好きな作品です。(1番はすでに取り上げた「殺しの双曲線」)西村京太郎と言うとどうしてもトラベルミステリー作家と言う印象が強いのですが、初期の頃は彼はいろいろなジャンルに挑戦していてとても興味深い作品があります。

この「四つの終止符」と言う作品も彼のそれまでに書いた作品とは少し毛色の違う作品です。ミステリーではあるのですが、社会問題を痛烈に批判した作品となっていてまた、センチメンタルな感情に弱い日本人にはもってこいの涙を誘うような感動的なストーリ運びにもなっています。
これまで3回ほど映像化されています。第1回目が1965年で「この声なき叫び」というタイトルで若き田村正和が耳の不自由な青年を演じています。2回目は1990年に自主映画的に作られた映画で現実性を出すためにすべて無名の俳優が使われています。そして2001年にはテレビ東京でテレビ化されているようです。2つの映画版はストーリー的には後半原作とは異なる展開の部分があります。特に最初の映画ではストーリー的にも「四つの終止符」と言うタイトルは使えなかったと思います。

社会問題を扱った作品で、その問題とは聾唖者に対する社会の偏見と言うものです。
小さな町工場で働く耳の不自由な青年は母との二人暮し。つつましい生活をしています。病気の母親は寝たきり。そんな彼に心を寄せる女性が現れます。そんな時彼の母親が亡くなります。死因に不自然な点があり調べると、砒素による毒殺だと言うことがわかります。耳の不自由な青年がやっと知り合えた女性との関係に寝たきりの母親が邪魔になり、母親殺しを企てたのだろうと言うことで、しかも状況証拠は彼しかその機会が無い事を示し、疑惑が彼に向かいます。
耳の不自由な人からの調書の難しさとか、聾唖者の置かれたその当時の社会的な状況などが捜査の段階で描かれています。青年は無実を叫びつづけますが、疲れ果て次のような手紙を残し獄中で自殺してしまいます。

「だれも、ぼくを信じてくれません
やっぱりぼくはひとりぼっちでした
ぼくを信じてくれたのは母だけでした
でも、母は死にました
だから、ぼくも死ぬよりしかたがありません
でも、だれも恨みません
ただ、ぼくの耳が聞こえなかったように
みんなにも、ぼくのいうことが、聞こえなかったのだとおもいます」

こうして2つの命が終わり(母と息子)2つの終止符が打たれます。

そしてこの事件の解決までにはあと2つ、つまり四つの死、四つの終止符が必要となります。

小説の中で「目の不自由な人の気持ちは目をつぶればある程度わかるが、耳の不自由な人の気持ちは耳をふさいだだけではわからない」と言うような言葉がありますが、音の無い世界に生きていると言うのも普通の人が思うよりは恐ろしく大変なのでしょう。
ミステリーとして読ませながらも耳の不自由な人たちの現状を読者に突きつけて考えさせる見事な小説だと思いました。
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Commented by genova1991 at 2006-05-20 12:29
この作品は知りませんでした。面白そうですね。
図書館に行けばあるでしょうか?(本屋さんでは無理でしょうね)
西村京太郎も最初の頃は結構社会派ミステリーを書いていましたよね。
私がうろ覚えの初期の作品は貸切列車に閉じ込められて列車ごと行方不明になるというようなストーリーのものですが、何という題名だったでしょうか?すっかり忘れ果ててMarrrsan頼りであります!
Commented by Marrrsan at 2006-05-20 22:37
●けーこさん
講談社文庫でまだでているのではないでしょうか。

西村京太郎は作品の数が多すぎて、ちょっと題名わかりませんね。
アイデアとしては「日本人全員を誘拐する」という「華麗なる誘拐」も楽しく読めて好きでした。
Commented by lanova at 2006-05-21 02:08
多作で知られる西村作品の中にこういうのがあったんですね。トラベルミステリーの大御所ということでKioskでは特等席に並べられていますが、私はあまり食指が動きませんでした。でも、これは読んでみたいなあ。
Commented by Marrrsan at 2006-05-21 08:44
●novaさん
西村京太郎は初期のものがお奨めですね。
ぜひチャンスがあれば読んでみてください。
Commented by rococo at 2006-05-21 14:36 x
トラベルミステリー作家となったのは自分だけの決定ではなかったと聞いたことがあります(^_^;)・・・ようするに山村美沙が書かないジャンルはトラベルミステリーしかなかったそうで・・・(^_^;)
Commented by Marrrsan at 2006-05-21 20:59 x
●rococoさん
なるほど山村美沙との競合を避けるため?
山村さんももう亡くなったので、またいろいろなジャンルに挑戦して欲しいですね。
でも「トラベルミステリー作家」とレッテルを貼られそのレッテルをはぐのは難しいのでしょうかね。
Commented by rococo at 2006-05-22 01:04 x
そうそう(^.^)
生前もリーダーシップは常に山村美沙にあったかも。
その後着物美人と結婚し湯河原に移住するなど大転身、ちょっぴり岡本一平を思わせますね(^.^)
西村作品は数年前出版された「女流作家」しか読んだことがありません(^_^;)が、出版社に向けての二人三脚のビジネス戦略には感心させられました。
Commented by Marrrsan at 2006-05-22 17:07
●rococoさん
知らない間に(と言っても私生活に感心はありませんでしたが)結婚していたんですね西村京太郎。
テレビで奥さんと豪邸でのインタビュー番組のようなもの見たことありました。

私も西村のように誰か売れっ子画家と・・・・・。
by Marrrsan | 2006-05-19 21:42 | ・懐古的本棚 | Trackback | Comments(8)